節税のやりすぎは危険です

多額の税金は払いたくない。なんとか少なくできないか、ということで、節税したくなる気持ちはよくわかります。確かに節税は、基本的には脱税とは違って合法的にできるので、できることならその恩恵に預かりたい、と思うのは人情だと思います。

一口に節税といっても、ほとんど問題ないものから、かなり黒に近いグレーまで、つまり脱税一歩手前のものまで、多種多様なので、注意しないと、崖の向こう側に落ちる危険性があります。

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国税庁 通達改正パブコメ 副業の年間収入300万円以下は雑所得?

そらかぜ

副業は増税になるの?

2022/8/1、国税庁から、通達改正のパブリックコメントが出ました。

要するに、小規模な副業を事業所得にすることによって、その赤字と、給与などメインの所得と損益通算して節税することを防止しようという趣旨と思われます。

パブコメで目を引いたのは、

その者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱う

国税庁 「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)パブリックコメント

です。この300万円に多くの人が反応したようです。「特に反証のない限り」としてありますので、「反証できればOK」なのですが、指摘されたら反証しなければならないので、プレッシャーがかかります。

確かに、ブログやアフィリエイトを含めた副業に関する記事や書籍を見ていると、「ブログ記事を書くためにかかった費用はすべて経費で落とせる」など、かなり無茶苦茶なことが書かれている場合もありました。

旅行や食事代金がすべて経費で落とせるとしたら、アフィリエイトの収入などたかが知れているでしょうから、すぐに赤字になってしまいます。

事業所得にしていれば、給与所得などのメイン収入と損益通算して節税できますし、きちんと帳簿をつけていれば青色申告特別控除や損失の繰越もできてしまいます。

日常生活のすべて、子育てブログを書いていれば子育てにかかるものすべて、となったら、生きていく上で支出したものすべてを経費にすることが可能になってしまいます。

国税庁としても、これは明らかに行き過ぎなので、歯止めが必要、ということで、通達の改正に踏み込んだものと思います。


【2022.10.8追加】

帳簿をつけたら「事業所得」 国税庁、基本通達案を修正

日本経済新聞 2022.10.8(土)朝刊

ホッとしましたね。国税庁が基本通達案の改正を修正しました。

それにしても、国民の意見を取り入れて、当初案から修正したことに驚きです。民主的ですね。

帳簿書類がある場合には「事業所得」に、帳簿書類がない場合には「雑所得」にするそうです。原則として、「本業」と「副業」は区別せず、帳簿書類を適正に作成していれば収入金額で一律区切らずに事業所得とするそうでs。

副業の推進を阻害する方針ともいえますので、この改正は穏当だと思います。

ただし、「原則として」というのがミソで、原則があるからには例外があ理ますので、帳簿さえあれば無条件に事業所得になるわけではありません。事業としての実態があるか、ということが最終的に判断されると思いますので、油断は禁物です。

具体的には、

  • 収入金額が300万円以下で本業の1割未満(片手間でやっているでしょう)
  • 赤字継続にも関わらず赤字解消のための取り組みをしていない(わざと赤字を作って損益通算することが目的)

の場合には、否認のリスクが高まるようです。

形式さえ整えば、と考えていると痛い目に遭いますので、ご注意ください。

税務の実務では、やはり常識で判断されるので、何か後ろめたさを感じなければ(個人差はあると思いますが)、それほど、心配する必要はないかと思います。センセーショナルなタイトルで煽る記事が多いので、冷静に情報を集める必要があります。

ネットでは、「副業つぶし」「またサラリーマンを標的に」といった意見を目にしますが、過度な節税が問題なのであって、必要経費として認められるものについては問題なく落とせますので、ちょっと違うのではないかと感じます。

サラリーマンが全員、節税のためにブログを始めて、記事を書くためにかかった費用だと主張して、あらゆる支出を経費にしてしまったら、税収は激減してしまうでしょう。

ブログ記事を書くためであったとしても、遊興の面もある場合、取材費としては、そのうちの何割分かを必要経費として計上するなど、節度が必要だと思います。

自宅を事務所にする場合には、事務所にしている部分を面積で按分して計上するのと同じイメージです。自宅兼事務所で、家賃の全額を経費にしている方はおられないと思います。経費と家事費が混ざっている場合は、割合の決め方はそれぞれになってしまいますが、さすがに全額経費というのはないでしょう。

そらかぜ

君子危うきに近寄らず。行き過ぎた節税は危険!

確定申告にあたっては、日々の帳簿作成が必要になります。今はクラウド会計で簡単に帳簿が作成できますので、選択肢が増えました。わたしは、業務では弥生会計を使用しています。

一定条件で無料で使えるところもあります。

相続マンションの評価についての最高裁判決

2022/4月に相続した不動産の評価額がいったいいくらなのか、最高裁判決が出ました。

相続税をできるだけ減らしたい、とは誰でも考えることですが、それが行きすぎるととんでもないことになってしまいます。

今回の場合、税理士がアドバイスしたと思いますから(素人が思いつくとは思えませんし、申告書の作成も困難と思います)、税理士も大変なことになったと思います。いくらの報酬だったかは分かりませんが、割に合わなかったことは推察できます。

ことの発端は、高齢の父親が死の直前に高額な不動産を購入し、不動産の評価額が低くなることを利用して、相続税を安く済ませる、というスキームを実行してしまったことにあります。その額があまりに高額だったために、あまりに不合理ということで課税処分になってしまったということです。以前、海外に住んで非居住者となり相続税を免れるというスキームが問題になりましたが、特に富裕層の相続税は高額になりますので、あの手この手で節税しようと、専門家も知恵を絞っており、イタチごっこのようです。

この不動産節税スキームを簡単に説明すると、例えば、現金で3億円あったとして、そのまま現金を相続したら3億円に税金がかけられてしまいます。ところが、現金を不動産に変えてしまえば、一般的には路線価、概ね時価の8割で評価されるので、2割安くなります。居住用であればさらに優遇措置があるので、現金を不動産にすることにはメリットがあります。相続税を安く済ませた後で売却してしまえば、また現金を手にすることができます。中古でも値下がりしない物件を選んでおけば、労せずして相続税を節約できてしまいます。

税務調査では、不動産の購入が合理的な取引だったのか、単なる節税目的だったのか、厳しく問われます。今回は節税目的と判定され、裁判でも支持されたことから、そうだったのでしょう。形式的に不動産だから一律割り引かれると安易に考えていは危険で、不動産を購入する合理的な理由を周到に準備しておかなければなりません。

これは高額な退職金も同様です。規程を準備する、会社への貢献度が非常に大きい、といった合理的な説明ができなければ、後で否認される危険があり、しかも金額も大きくなりますので、否認された時のダメージも大きくなってしまいます。

税理士もここは腕の見せどころ、と張り切ってしまい、結果として大火傷をして一発退場とならないよう、用心しなければなりません。

国民の3大義務

日本国憲法の3大義務は、

  • 教育の義務(教育を受けさせる義務)
  • 勤労の義務
  • 納税の義務

ですが、簡単に言うと、勉強して働いて国に税金を納めよ、と言うことですから、税金を減らす行為は、「けしからん」ということだと思います。

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